「里亞王~リア~」公演無事終了しました。
俳優業、演出家として34年目にして初めて初日に雨が降りませんでした。
仕込み日から千秋楽までずっと雨が降らなかったという、奇跡の6日間でした。一応雨男は解消です。
キャストの皆さん、スタッフの皆さん、通訳の皆さん、ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。
わざわざ北海道から来てくだった方もいて、本当に感謝一杯です。
たった4日間で6ステージ、2時間 10分上演『里亞王~リア~』は貴重なものでありました。
一口で、キコエナイ役者とキコエル役者がコラボレーションして創るといっても、それは生易しいことではありませんでした。
あらゆる意味で強く印象に残った仕事となりました。台本(決定稿)が出来たのは昨年(2013年)の 12月末だったのですが、シェイクスピアの古典劇を手話劇に置き換えるのは難しいと言われもしました。
企画、運営上、創造上の困難さは、並大抵のものではありませんでしたが、ゼロから出発して、新しいジャンルを何とか生み出そうとし、それを楽しもうとしながら、取り組むみんなの姿を目のあたりにできたことは感銘でもあります。
文化は、創りたい、触れたいという意志さえあれば、条件が悪くても、生み出し、広がり深まるものだと確信しています。
台本を創るにあたり、筋立ての面白さ、構成の巧みさ、コトバの面白さ、何よりも人間を見つめる目が驚くほど的確で、とても 450年以上昔に創られたものとは思えないほど現代の私たちの心に迫ってきます。
やはり、シェイクスピアの戯曲は圧巻でした。手話だけに拘らず、自然な体全体で物語を創ることが余程刺激的だと思い、演出しました。すべての登場人物とその台詞は、其々の持つ成育歴により、手話表現や声の使い方がかわりました。
里亞王・・・中途失聴者、ゴネリル(長女)・・・コーダ、リーガン(次女)・・・コーダ、コーデリア(三女)・・・遺伝性聾者、エドガー・・・遺伝性聾者、エドマンド・・・後天性聾者、グロスター・・・聾児を持つ親・聴者、どの台詞も、それが発されたその場の状況や他の登場人物の反応によって表現が多様化されています。
手話によって劇をすることではなく登場人物の設定をリアルに内包した結果の表現(コトバ)によって劇をしたのですが、そこには大きな違いがあります。そのため、指摘も受けました。お客さんの反応も様々でした。
しかし、演劇は多様な表現方法があって良いと考えます。今回の方法がベストとは言いませんが、シェイクスピア劇は、リアリズムを追求するためには、とても良い材料となりました。
演出家としてストレスなく稽古や本番を迎えられたのは演劇の仲間のおかげです。
演出補野崎美子さん、宣伝助っ人大杉豊さん、装置榎本トオルさん、美術安元亮祐さんは25年以上の演劇の仲間であり、今も学びあっています。
又、川口さんの衣装、芳賀くんの音楽、キャストの演技も切磋琢磨をしながら、なかなか素晴らしかったと思います。
縁の下の力持ちの制作の皆さん、演出助手、通訳チームさん、衣装手伝いさん、道具手伝いさんにも感謝です。
お金も時間も少ないなかで、素敵な空間を創ってくれて深く感謝しております。
「里亞王~リア~」をやるにあたり、「みんなが手話で話した島」の本をベースにしましたが、個人的に、キコエル役者たちも手話台詞をよく覚えてくれたり、キコエナイ役者が表現を教えたり、学びあったり、歩み寄った表現を創ったり、気がつくと通訳を介さず、直接会話をする姿も見られ、感銘しました。
3ヶ月集中して稽古に励んできましたが、本当は手話ワークショップ、個別手話指導も含めて7ヶ月だったと思います。
半年以上付き合ってきて、キャスト、スタッフと心が通じ合い共通コミュニケーションができたからこそ、創れた作品だと思います。
「演劇の幅を広げる」という宣言は、その挑戦が実を結びつつあると考えます。更に皆に喜ばれる普遍的な表現を目指したいと思います。
とにもかくにも、LRの皆様、関係者の皆様、本当にお疲れさまでした。 また、会いましょう。
温故知新 子曰わく、故きを温めて新しきを知る、以て師と為すべし 昔の物事を究めて新しい知識や見解を得ること
演出家 庄﨑隆志