演出ノート-『照明』

故宇野小四郎師匠手話劇と舞台照明のこと~案ずるより産むが易し!!
舞台照明は照明担当さんに任せていればオッケーではありません。もちろん担当さんを信頼ことから始まりますが、照明も含めて舞台を考えることも大切です。まず舞台照明のことを多少は知っておいていただきたい、自分たちが求める照明をつくってみるとより舞台が面白くなるかと思います。皆さんの知恵で、自分たちの舞台に合った照明をどうやって創れるのかを考えることが大切な一歩です。エキサイティングな舞台になるようなライティングをご紹介します。
また、ある人から「手話劇に相応しい照明にしたいのに、照明担当さんとなかなか話しづらくて・・・照明のことは難しくて、よくわからない」という人もいるでしょう。そのような質問が圧倒的に多いです。それは確かにそう思います。実際の光の当たり方、色の選び方、明かりの印象とかは、実際に舞台現場に見にいっても「舞台照明は色々あるな、ちょっと複雑な感じが…」とただ見るしかないものです。
こちらのwebを通じて、必ずや楽しく実りある「光」に取り組んでいただけると思います。舞台ライティングに難しいルールは特にありません。ちょっとしたコ
ツを押さえれば、相応しい光の創り方を知って頂ければ、様々な魅力を発見し、自由自在な照明ライティングができ、舞台照明のプラン作りをどんどん楽しめると思います。それで照明担当さんと共同しあえばと面白い芝居が出来上がるはずです。
ここでは、そんな舞台ライティングの大切なポイントをご紹介いたします。舞台にドラマチックな明かりを演出するための照明の基礎知識を簡単に説明します。
手話劇の場合、客席から見ると「照明がちょっと暗いな、手話が見辛いな、その色は合ってないな」と何かしら違和感を言われたり、疑問に思われることがよくあります。
ということで、一般的な舞台ライティングは「基本的に照明を明るくすればそれでよい」という方がほとんどではないでしょうか。確かに一般的な照明では、どの会場でもおまかせの照明ライティングをすると普通の地明かりやベター明かりというのが一般的です。けれど商業演劇などの舞台ライティングでは、もっと色々な「光」が使われています。かっこいい「光」や美しいカラフルな「光」とか出すためにはどうすればいいかというと、舞台ライティングの基本があります。手話劇でも、取り入れたいものです。また、演出スタッフの要望通り、複数の照明を使った「エキサイティングな世界への光の組み合わせ」をするためには、お金がかってしまいそうなイメージがありますが、そんなことはありません。知識をもって工夫をすれば、お金はかかりません。照明について大きくわけると、基本的に「全般照明(地明かり)」と「部分照明」「特殊照明」の3つがあります。そしてこの3つの照明を組み合わせることが、上手なライティングの基本中の基本なのです。会場に設置してある舞台専用のスポットライトには、平凸レンズスポットイト(平凸)
フレネルレンズスポットライト(フレネル)ソースフォースポットライト
パーライト
センターフォロースポットライト(PIN)
ストロボ、500W、1000W、1500W、2000W等、色々あります。全般照明というのは地明かりと言います。それは空間全体を明るくするための照明です。
シーリングライト、サスペンションライト、フロントライト、SSライトなどは、照明さんが調光器で明るさをコントロールするので思い切って照明さんにどんどん注文したほうがいいと思います。
実際に照明を選ぶとき、いちばん気になるのがやはり顔と手話、演技エリアも要チェックです。照明は色合いや明るさ、柔さ、影の具合といった照明を選ぶときはまずどこで使うのかを考え、光の範囲をしっかり確認することが大切です 。公演本番が迫ってきた時、稽古の途中で照明担当さんとの打ち合わせをします。出演者の表情や手話表現を見て確認しながらちょうどいい明るさと気に入った空間を設定することで、部分照明をより効果的に使用できます。全体照明を補う照明としてのフレネルレンズスポットライトは輪郭のボヤけたソフトな「光」を出します。フレネルレンズスポットライト照明があれば、とても手話劇にぴったりな明かりですし、「光」が柔らかいし、肌に合う明かりにすれば飽きもなく見易いので出来る限り使うようにしています。平凸レンズスポットライトは照射された光の輪郭がはっきりとし、遠い距離からでも十分に対象物に投光することが出来ますが、平凸レンズスポットライトを多く使ってしまうと顔や手腕に当たると反射が強くて出演の姿が白っぽくなってしまいます。聞こえる演劇の場合、声だけで響きがよければ問題ありませんが、それ
と同じように一般的な「光」だけでは、聾者が手話で語り合う姿が引き立ちません。手話で演じる側が見易く周りがやや暗めにする工夫をすれば、手話で語り合う演じる側が引き立ち、聾の観客が集中しやすくなります。一般的な演劇の舞台照明を見ると青系の明かりが目立っているので、その光が当たっているところと当たっていないところで手話の手と顔が幽霊っぽくなって不気味な表情を作ってしまいます。さまざまな方向から人物や物体に光を当てると、立体的にも平面的にも見えるはずです。顔や手腕の位置を考えないと、出演者の顔がみんな薄暗くなって、せっかくの演劇(手話劇)が台無しになります。稽古の最中に舞台を組んで出演者を出し、演出席側にいる照明担当さんとどうするかこまめに話し合う必要があります。芝居の流れが固まってから最終的にリハーサルする時に舞台照明担当さんに来ていただくのがいちばんです。手話の台詞を出したりして手話の色合いも一つ一つ確認していってほしいものです。
※CLシーリング
客席上部の天井に設置されています。
※SUSサスペンション
舞台上部から演技面を照射します。
※FSフロントサイドライト
客席の両サイドの壁面に設置され、側面から舞台を照らします。
※ピンスポットは何故使わないのか~舞台にピン照明(センターフォロースポットライト・PIN)を当てると、逆に出演者や司会、手話通訳で舞台前に立つときは、表情が白くて眩しくて読み取りにくいのです。あまりも強いスポットライトを使うと白っぽくなります。
※本ベルと1ベル(開演5分前)は客席にいる聴覚障害者、中途失聴難聴者のために客電、急に電気を消して暗くするのではなく、徐々に暗くなったり明るくなったりとか、「まもなく始まりますよ」と合図をして明かりを消すと安心です。僕らはあまり使いません。開演瞬間に演出効果で「エキサイティングの世界にようこそ」という風に明かりを作ります。
プロの照明家さんがよく承知している「舞台の基礎からDMX、ムービングまで ステージ・舞台照明入門」という本があります。手話劇では使わないような高度な知識も含まれていますので、取捨選択の必要はありますが、参考になります。巻頭の写真だけでも見る価値はあるでしょう。
もし、どうやって創ればいいのかわからなくなった時は、忙しい照明担当さんではありますが、つかまえて大いに教えてもらってください。なんならメールとか手紙で問い合わせをしたりするのが良いでしょう。
最後に『肌に合う舞台照明』を大切に作ってください。照明担当さんとともに舞台を作ることで、劇的感動が生まれ、舞台も盛り上がることでしょう。役者にも観客の心にも感動を届けることができると確信しています。

2015年7月18日


演出ノート「悲劇喜劇の役者について」

 自分が年をとったせいか、「悲劇喜劇の役者」を感じられる聾の男優がなかなか現れてこないなと感じる今日この頃。俳優は、「人生」を演じられてこそだと思います。先人たちの言葉で『演劇は人生の鏡』と言われています。演劇人の僕も36年間「人生の鏡」の仕事をしてるのですから、どうしても「感動」のある芝居を作らなければ食べていけない人間です。「人生」を演じるには、「挫折」を体験しなければなりません。挫折したときの気持ちやそれを乗り越えるまでの心の動きが自らの豊かさになります。それらを礎に表現することで、観客に入り込み、その想像を掻き立て、感動してもらうのです。
>私は俳優、演出だけでなく演劇プロデュースもやりますが、時々役者を雇います。役者選びには苦慮します。
>悲劇喜劇の役者は起承転結のある長時間のドラマを主体にしたお芝居をしています。これらに挑戦してくれそうな役者にはなかなか出会えないのが現状です。「偉大な俳優になるために必要なのは、演技をする自分を愛すること」
>「人生は素晴らしい。恐れの気持ちさえ持たなければ…。何よりも大切なのは勇気だ。創造力だ。」この2つはチャールズ・スペンサー・チャップリン・ジュニアの言葉です。 私たちに名言を残してくれました。これは芸能文化の中でもずっと受け継がれてきました。一方で私たちは今、これから先の人々にいったい何を残そうとしているのか。本当の文化の豊かさとは何なのか。どんな未来を描きたいのか。何を次代へ伝え残したいのか。そして「喜劇悲劇」の役者とはなにか。リアルで正直なものに観客は引き込まれるもの、そういったことを、これからも丁寧に考え続けていきたいと思っています。一緒に挑戦していきましょう。


2015年6月18日


演出ノート-『北斎』

故宇野小四郎師匠最近、舞台でいろいろな方と共演したり、さまざまなお芝居を観に行ったりするのですが、劇場を見渡すと、毎回若い世代が少ないということに気付かされます。ということで、今一度若い世代に、古くから人々が感じ取ってきた日本芸能文化の「粋」、「演劇の持つ本質的な豊かさ」を噛み締めてもらいたく、『UKIYOE北斎』再演を目指して、プランをたてることにしました。我々が創り上げた『UKIYOE北斎』の上演を通して、若い世代のみならず多くの方にとって演劇がより身近な存在になることが目標です。また、日本の伝統である浄瑠璃人形劇の要素を用いて、世界に通じる「グローバルなエンタティメント」を目指し、みなさんに楽しんでいただくと同時に、芸能文化の奥行きの深さも感じていただければと思います。


2015年7月18日


最も尊敬する演出家・伝統人形劇研究家宇野小四郎師匠が4月19日に亡くなられました。

故宇野小四郎師匠 突然の訃報でした。翌日(20日)、すぐに会いに行きました。実に穏やかな優しい顔。その宇野さんに向かい、あらためて訊いてみました。
 「宇野さん、人形劇のお父さんには、もっともっと芝居と共に歩む僕の姿を見てもらっていたかった。今の僕は、これでいいんですよね」と。
 無口無手でした。寂しいです。宇野さんの娘さんお二人からは、「本当の息子のようによく話したよ。」と言われて涙をのみました。

 35年前、宇野師匠は、「デフ・パペットシアター・ひとみ」を創立させようとしていました。その時の僕は、一般企業に就職するかどうか、また、家族の心配や反対もあって、「デフ・パペットシアター・ひとみ」の創立メンバーになることに断りを入れていました。そんなとき、真っ先に声を掛けてくれたのが宇野さんでした。


故宇野小四郎師匠 「庄坊は、近い将来聾文化のリーダーとなってくれ。必ず道は開けるはず。」と、ぎこちない手話で訴えられ、力強く手を握ってくださった時のぬくもりは一生忘れません。
 35年後の今、僕は、宇野さんのおかげでたくさん成長する事ができました。宇野さんは、僕の俳優界、手話の世界の扉を開いて下さった大恩人です。
 芸能文化はもちろんのこと、プロフェッショナルとは何か、人形劇役者・演劇人としての生き方まで全てを教わりました。本当に大きな存在でした。

 歯に衣着せぬ言い回しで、押しも強い人でした。だけど人一倍面倒見がよくて、僕にとっては第二の父親のような人でした。

 「命生きる力」公演が4月29日にありましたが、宇野師匠のためにVIP席を用意させてもらいました。ちょうど亡くなられた1週間後なので、天国から見守ってくれたと思います。手がけてきた演出、俳優としての表現、プロフェッショナル演劇人として頑張ってきたことが少しずつ実を結んできたのは、演出家宇野さんのおかげであることをあらためて実感した日でした。

 あなたの事を一生忘れません。ありがとうございました、さようなら、忘れません。

 心よりご冥福をお祈り申し上げます。

2015年6月18日