大分日にちは経ってしまいましたが、1月には高知、高松、3月には山形・秋田の4カ所公演のツアーを行い、初・メンタルヘルス演劇公演は好評のうちに終了しました。
 観客のみなさんの中には、最後、涙を流している方もたくさんいました。観客のみなさんの心に届いたという実感がありました。
 次回の『メンタルヘルス演劇』は 今年10月に青森公演、12月大阪公演、来年2月群馬公演として実現することになりました。
 精神障害を抱える苦しみ、悲しみ、傷みを、愛と希望を、この「聴こえないこころ」の芝居に込めて、さらにたくさんの日本中の人たちに届けたいです。
 さて、1月下旬メンタルヘルス演劇の高知初演が始まる前、主催の代表である日本聴覚障害者ソーシャルワーカー協会会長さんから「百聞は一見にしかずということわざのとおり、見てもらうのが一番いい。私の百のお説教よりも、ご覧になられたらきっと感動するに違いありません。だからビジュアルで今回の舞台の空気を少しでも感じていただきたい」と心のこもった熱い言葉をいただきました。これは、僕の心にも強く響き、感激しました。
 ですから、「百聞は一見に如かず」を心に、演劇人として自分の人生の全てをかけて舞台に臨みました。
「どうやってお客さんを感動させるのか」「今、求められているのはどういう役なのか」を模索しながら、「メンタルヘルス演劇」への関心を高めていくためにどうしたらよいか常に客観視してきました。
 その結果、四国公演と東北公演で好評頂けたという有難い状況になったのです。
 なお、始めにお断りしておきますが、私はメンタルヘルス専門家ではありません。カウンセラーでもありません。
 最終的に、いい舞台を作り上げることが私の使命なのです。どう伝えればいいのか、役を演じ切るにはどうすればよいのか。こつこつと稽古を積み重ねられればなりません。
 僕がまだ20代の頃に言われた言葉で、よく思い出すのは、女優今泉陽子さんにかけていただいた言葉です。
「稽古照今(けいこしょうこん)ということばは知っている?プロの役者だからといって、偉そうに魅せるのじゃないのよ。稽古照今というのは、古いことをよく稽える(考える)、丁寧な役づくりで心を込めて芝居が出来たら沢山のお客さんがついてくるのよ」という言われ、毎回研究しながら作ってきました。
 日本で一番古い『古事記』の序文に、「古(いにしえ)を稽(かんが)へて今に照らす」とあります。時間をかけて芸を磨き、今に照らすことが大事なのです。
 今回は、稽古をしていて、ソーシャルワーカー協会のスタッフからのアドバイスをあらゆる方面から頂き、自分では思い至らなかった部分にも気付き、どこまでいっても「これでよし」と思うことがありません。
 現代社会は情報化社会と言われています。目まぐるしく動く社会の中で、その歪みから、精神障害の方も増えていくでしょう。
 デジタルな社会ですが、皆さんに生の舞台を観ていただきたい。そして、生のトークショーで生の言葉に目や耳を傾けて欲しいのです。
 メンタルヘルス演劇という舞台を通じて、心身ともにに穏やかになる、すごく良いコミュニケーションツールだなということも改めて感じました。これからもメンタルヘルス演劇の活動をずっと続けていって欲しいです。

2016年5月3日